出会う《和紙の現場》

和紙の現場を訪ねる 第1回

第1回

紙漉き職人・田村亮二さん

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高知県の手漉き和紙製造が最も盛んな地域、仁淀川の中流域の静かな田園の中に田村亮二さんの工房があります。

和紙づくりに適した寒い季節のピークを越え、春の訪れとともに製造もやや落ち着いてくる頃、ということで工房へおじゃまさせていただきました。

「今日はこの紙を漉く初日。ペースをつかむためにゆっくりめで漉いています」と田村さん。
おっとり優しい田村さんの言葉とは違って、工房にはピンと張り詰めた心地よい緊張感が漂っています。伺った時はちょうど美術用の専門和紙を漉いているところで、県外からの依頼で、田村さんも開発に一から関わり、2年がかりで作り上げてきた美術写真専用の和紙だといいます。

田村さんは主に、文化財等修復用用紙や、美術工芸用用紙などを手がけており、特に手間ひまのかかる「雁皮」を原料とする和紙製造では卓越した技術の持ち主で、その美しい和紙作品は眺めているだけでも癒されるよう。
田村さんのこだわりはとお聞きすると、「伝統的な工法、その中でも昔ながらの原料処理にこだわっています。」とおっしゃいます。
昨今は強い薬品で原料処理をすると効率のよさは獲得できるものの、繊維が痛みやすくかび等も出やすくなる、そのため、美術工芸用用紙では長期保存に耐えうる和紙づくりには丁寧な原料処理が要求されます。
「原料処理が紙漉きのほとんどを決めるといってもいいぐらいです」
漂白によって通常なら漂白してしまう原料のチリ(小さな黒い繊維かす)もひとつひとつ手で取り除いているその姿を見ていると、和紙1枚1枚が仕上がるまでの途方もない手間が幾重にも重なって仕上がっていることが実感できます。

自分が漉いた紙がアーティストさんの手によって作品となり、長く後世に受け継がれていくような仕事がしたかった。今手がけている和紙づくりで僕の夢が叶いました。」とお話する田村さんの目はきらきらと輝いていました。

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