出会う《和紙の現場》

和紙の現場を訪ねる 第10回

第10回

木版画画家・川村紗耶佳さん

どことなく虚ろな表情でこちらを見つめる人物と、独特の色使いが印象的な木版画を制作されている川村紗耶佳さん。
その繊細な線や色など、作品の細部の表現を決める版画用紙には、土佐和紙を使用されています。
その制作や手法についてお聞きしました。

どんなお仕事をされていますか?

大学助手・木版画画家をしています。

私にとって木版画制作は、自己の記憶との対話であり、記憶を形に残す手段だと考えています。 作品は、登場人物の夢と現実が重なった世界観を表現しています。 水性木版画の技法を用い、土佐和紙に幾度も記憶のイメージを摺り取ることで、触ることのできる形として「記憶」を残していきます。 木が持つ自然な木目と、水性顔料を土佐和紙の繊維の中に摺り込み、生み出す色で構成しています。 作品の特徴である人物の顔の表現は、濃い色から薄い色へと次第にぼかしていく「ぼかし摺り」と、三角刀やニードルで付けた細かな彫り部分に絵の具を溜めて摺りとる「凹版」の要素を用いて試行錯誤を繰り返し、今の表現方法に行き着きました。この表現方法は、木版画と和紙の特徴が合わさったからこそ生まれたものです。

左: 「Bon voyage Ⅱ」 /技法:水性木版画/イメージサイズ:700×700mm/制作年:2015年
中: 「carol Ⅲ」/技法:水性木版画/イメージサイズ:150×150mm/制作年:2015年
右: 「come to mind」 /技法:水性木版画/イメージサイズ:300×300mm/制作年:2016年

 

なぜこのお仕事を始めたのですか?

本格的に勉強を始めたのは、大学1年生の時からです。
大学2年生の時には木版画制作に携わる仕事に付けたらと思っておりました。
木版画との出会いは小学生の頃でしたが、版画の特徴である、版をつかう間接表現、複数性に魅力を感じ今でも制作を続けております。

今後どのようなお仕事をしていきたいですか?

表現、技術力をあげて、より良い作品をつくるために今後も研究、展示発表していきます。 制作のテーマである大切な記憶について考えた時、作品制作を通して、次の段階へ進めないか。 このことをこれからの制作において試みていきたいです。
「記憶」という言葉から「形」へ。 この言葉が、これからの私の作品制作の軸になると考えています。

左: 「me time Ⅲ」 /技法:水性木版画/イメージサイズ:200×160mm/制作年:2018年
右: 「 the sound waves Ⅱ」/技法:水性木版画/イメージサイズ:915×910mm/制作年:2016年

 

土佐和紙の魅力や使い方について教えてください。

土佐和紙との出会いは、大学3年生の時です。 木版画制作において色が染み込みやすい和紙、幾度も版を擦り重ねる作業に耐えられる和紙を探していた時に、担当教授に教えていただきました。取り寄せて使ってみたら絵の具が染み込みやすく、耐久性にも優れており、これまで7年間土佐和紙を使用し作品を作ってきました。
土佐和紙は、他の版画用和紙に比べ、繊維が長く丈夫で、絵の具の色も色鮮やかに表現できると私は思っております。

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